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企業経営における共同体研究論のリンク

コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの企業で経営継続について過渡期を迎えている。飲食店の多くが、デリバリー商品の品数を増やしたり、「ウーバーイーツ」や「出前館」などのデリバリーサービスと提携して経営維持に努めている。飲食店は、デリバリーサービスを充実させるという「わずかな業態変化」で売上の低下を軽減させることが出来た業種と言える。しかし、同じ飲食業でも、銀座の高級クラブなどはデリバリーサービスを拡充させることなどできず、経営難を理由に事業売却をした事例もある。
 他方、飲食業以外の業界は、コロナ不況脱却のために既存の業態をわずかに変化させるようなレベルの転換が難しく、全く未知の新規分野に参入する事例もある。例えば、神奈川県の人材派遣業社「ジョビア」は、ビルの1階の飲食店で使う野菜を3階で水耕栽培するという画期的な新規参入を行った企業である。また、最近、旅行会社「近畿日本ツーリスト」がPTAの業務を引き受けるという斬新な事業を展開し、注目を集めている。
筆者は先日、一般社団法人「ユーラシア財団」の主席研究員・鄭俊坤博士の話を聞いた。この中で、コロナ後を見据えた共同体の変化について話が及んだ。現在、岐路に立つ日本の企業経営と言う共同体の運営と変化について役に立つものもあり、感銘を受けた。その一端についてご紹介する。
 
一人の人間は、人と人が関わって形成される「共同体」に4つ程度、属している。それは国家や企業、趣味の集団など様々ある。その中で国家は、一番大きな共同体のくくりであり、「個人の生命、財産、自由を保障する」メカニズムと言える。
 人間は、国家と言う共同体に所属することで他国などからの身体的危害から守られ、国家共同体を変遷・継続させることで文化や文明を進化させ、子孫繁栄を成してきた。人間が生き残るためには、共同体が長続きするようメカニズムを構築・発展させていかなければならない。
 これまで、発展途上国と先進国では「大きな文明の差」があったが、現在のIT化に伴い、その差が無くなってきている。ユーラシア財団は世界500の大学で講義を実施しているが、ZOOMでのリモート授業も実施している。時には欧米の先進国やモンゴル、カンボジアなどの発展途上国などで行う。モンゴルなど発展途上国で授業を行う場合、インターネット通信が途切れることなくスムーズに授業が進められたが、米国の大学で授業を行った際には通信が中断し、教授が対応できず学生らを巻き込んで復旧作業に取り組むほどで、「米国とモンゴル、どちらが先進国なのか」と考えさせられた。それほど、今は、先進技術が国家水準に関係なく共有されている。
 また、世界は新型コロナウイルスの感染拡大や、ロシアによるウクライナ侵攻で、共同体の在り方にも変化が生まれつつある。
 世界にはこれまで、覇権国と呼ばれる国が様々存在した。古くはペルシア、ローマがあり、近代ではイギリスや米国となる。覇権国の共通点は、国土の広さ、資本でリードしたのではなく、相対的に「多様性があり包容力のある国」が覇権国になり世界をリードしてきた。
米国は、多様な人々を受け入れ、経済や専門分野を形成してきた。現に、米国の企業のうち41%の企業が「移民が作り上げた企業」と言われている。米国は、多様性で現在の地位をつかんだとも言える。米国が、今になって「白人至上主義」など多様性を否定する政策を採れば、覇権国ではなくなると考える。
体は38兆の細胞で構成されており、1日100億個の細胞が生まれ変わっている。このような激しい変化を日々繰り広げるのは、健康な体を維持するためである。身体を構成する細胞の場合、「変化しない=死ぬこと」と同義である。全ての生命体と有機体だけでなく、国家や民族などの共同体が生き残るためには変化が必要である。現在、コロナ禍の社会で生き残る企業は、何らかの変化をしている。そうしなければなくなってしまう。
政治学者・トクビルは「もし、あなたが一つの国についてしか知らなければ、何も知らないことと同じである」と言及している。他国について知らないと述べることは、自分の国すら知らないと認めることであり、より広い視点で物事を見る訓練をしていくことが必要である。真実を知るため、現状などを分析することが大事である。広く多様な視点から見るとき、真実が見えてくる。

 こうした話について、会社経営者に話を向けたところ、「企業経営にもリンクする点がある」などと次のような話をしてくれた。

 コロナ禍において、会社経営者は企業という共同体を守るため、企業に様々な変化を与えている。それは、本社機能を大規模な社屋から小規模な事務所に変えたり、従業員数を減らしたりしている。また、飲食店の場合は、デリバリーサービスを拡充するなど、既存の事業の延長線上の変化を見せている。これらは小規模な変化と言えるが、業態転換や新たな事業に着手するなど大規模な変化を見せる企業もある。例えば、インターネット通信会社がコロナ検査に乗り出して成功を収めたりしている。
 企業と言う共同体を継続するため、経営者はあらゆる変化を起こしているが、新規事業に取り組めるのは極わずかであろう。それは、資本的問題もあるほか、新規参入事業のノウハウの有無もあろう。新規事業のために、新たに採用した職員が悪意のある人物であれば赤字事業となりかねず、最悪の場合、企業そのものが崩壊の憂き目にあいかねないからだ。経営者には大胆な決断が求められるが、それを成し遂げるためには、覚悟が必要となる。
 新規事業に取り組む場合、当社では、事業内容とスタート時点の初速力、これに担当社員の能力や目標や達成意思を勘案するようにしている。部下から新規事業の提案があった場合、最初から否定することせず、その事業内容や提案者の思いなどを勘案して考慮するようにしている。こうすることで、新規事業リスクも軽減できる。企業経営者は「突然の思いつき」で何でもできる面もあり、都合のいいように会社を操ることもできる。しかし、それは会社という共同体を壊しかねない変化を生むこともある。昔のように、創業家育ちの横暴な経営者が生き残れる時代は終わった。コロナ禍になり、経営者にはより緻密で建設的、発展的な経営が求められていると言える。それこそが、企業と言う共同体を長続きさせるための「変化」の重要な要素と言えよう。

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