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勝丸円覚という元公安警察の記事について考える

 デイリー新潮ホームページの記事掲載ページより 私はFBIのために北朝鮮「一等書記官」の指紋を入手した 元公安警察官の証言(抜粋) | デイリー新潮 (dailyshincho.jp)

 デイリー新潮2022年9月19日付に「私はFBIのために北朝鮮「一等書記官」の指紋を入手した 元公安警察官の証言」という記事がある。
 この記事の筆者は、勝丸円覚という元公安上がりのジャーナリストのようだ。同人は、アフリカにある大使館で勤務経験があり、その時の話を記載している。
 同記事では、アメリカ大使館に勤務するFBI職員から「北朝鮮大使館に勤務する一等書記官が偽札を伝搬した疑いがあり、指紋を取って欲しい」と要望され、それに応じ、多くの大使館員が交流するパーティーで、同人の指紋の着いたナイフなどを入手し、FBI職員に渡したというのだ。

 今回、勝丸氏の記事について気になることがあり、公安関係者に話を聞いたところ、匿名を条件につぎのような話をしてくれた。
<公安関係者の主な発言内容>
 勝丸氏は、南アフリカ大使館で勤務していたことがあるようで、自身のTwitterなどでそのことに言及している。今回の記事は、その時の話を書いたものと思われる。
 しかし、この話には疑問が残る。まず、北朝鮮大使館員が、そんなに他者と交流する場に行くか、という問題である。
 私のイメージでは、北朝鮮外交官が他国の外交官と交流する場合、ロシアや中国、ベトナムなどの友好国の大使館行事に参加したり、国際会議に参加して関係を作ったヨーロッパの大使館員と個別に会ったりはすると思う。しかし、日本人外交官が参加する場に北朝鮮外交官が来たのであれば、まず、関係構築を最優先にすると思う。
 今、北朝鮮と日本政府は外交パイプが無くなっていると言われているが、もし、このような接触の機会があれば関係構築の機会となり、積極的に活用すると考えるからだ。パーティーに参加しながら、関係構築をせずにスパイ行為だけしたのであれば、せっかくの機会を台無しにしている、としか思えない。関係が構築できれば、食事にでも誘っていつでも会うことも可能になり、さらに濃厚な指紋付きの資料も手に入れることができるからだ。

 しかも、このような北朝鮮外交官の指紋奪取情報を公表するなど、北朝鮮及び朝鮮総連のスパイ組織が知れば、外交問題として批判を受けかねない。公安警察出身者の割には北朝鮮の恐ろしさを知らないとしか思えない浅はかな対応と言わざるを得ない。
 また、FBIの意図を受けて、日本大使館勤務者がそのようなスパイまがいの活動をして良いのか、という問題もある。スパイまがいの活動をした在外日本大使館勤務の他省庁出向者が処分を受けたという話を聞いたことがあるからだ。
 では、そのような出世の危険がある状況下で勝丸氏がスパイまがいの行動を行ったとするなら、その要因として考えられるのは、カネ、女性問題などの弱み、北朝鮮情報を取りたいという名誉欲や虚栄心、警察庁本庁の命令、のいずれかであろう。もし、カネで動いたり、女性問題など弱みを握られてゆすられたのであれば、公安関係者なのに脇が甘いとしか言いようがない。
 また、他省庁に出向している警察関係者に話を聞いたことがあるが、「多くの出向警察官は、他省庁にイヤイヤ出向している。出向先では何もトラブルを起こさず働くことが使命となっており、出向先で特異な行動をすることは警察組の上司にも睨まれ、自身の立場を悪くする」と聞いたことがある。

 勝丸氏の記事には、あまりにも過去の話過ぎたり、外交官時代の思い出など現地に行くこともできず、真相を追究できない話が多い。
 例えば、デイリー新潮2022年5月10日付、「北朝鮮のスパイと結婚した日本人看護婦 夫の正体を知った後、彼女はどう振舞ったか」もそうである。
 この記事には、1962年に捕まった北朝鮮工作員の話が書かれている。まずもって、勝丸氏がプロフィールにあるように1990年代半ばに警視庁に入庁したのであれば、仮に1995年に入庁し、その当時25歳として、生まれ年は1970年となる。明らかに、勝丸氏の生前もしくは生後間もなく記憶が無い時代に起こったような事件を紹介している。しかも、さも見てきたかのように書かれている。公安関係者は日々の事件に追われる中、昔の事件をリサーチすることはあるが、「よど号ハイジャック事件」や「八尾恵事件」など有名案件で詳しく調べた過去が無い限り、ここまで細かく覚えているのは無理だと思われる。
 勝丸氏が紹介した事件は、「大寿丸事件」と思われ、特定失踪者問題調査会の記事(https://www.chosa-kai.jp/archives/2930)、ウイキペディア(大寿丸事件 – Wikipedia)に紹介されている。
 しかし、これらの情報サイトには、勝丸氏の記事に出てくる英子なる協力者の話は載っていない。勝丸氏の記事では、英子は犯人の主要協力者として表現されており、それほどの人物ならば、逮捕者としてウイキペディアなどに紹介されていてもおかしくないのだ。
 仮に英子が存在するとして、ここまで細かな情報を退職した公安関係者が公開したとなれば、警察の内部資料などを持ち出しているとしか考えられず、情報漏洩になりかねない。
 また、この記事の中で、もう一つ疑問点がある。それは、英子の罪状にある「秘密保護法違反」というものである。
 ニフティーの新聞横断検索で「秘密保護法」と調べたところ1984年11月21日付の朝日新聞の記事「危機管理懇が報告書 軍事的対応策を提言 偵察衛星の保有も」が読めるもので最も古く、その中では「秘密保護法の整備も提唱している」と言及されており、1984年当時でそのような法律が存在しないのだ。仮に、特定秘密保護法の間違いだったとすれば、同法は2013年に制定されており、あり得ないのである。

 これらを総合すると、勝丸氏は、今を生きる人々が簡単には分からないような内容を記事として紹介し、端々に嘘や虚構を紛れ込ませている可能性が考えられる。
 これ以上、追究ができない以上、確たることは言えないが、勝丸氏の報道内容には疑問があるほか、情報漏洩やスパイ活動まがいの外交活動を行った外交官と指摘される可能性が考えられる。

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