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元北朝鮮外交官 単独インタビュー  「餓死者が出た」と報じられた今の北朝鮮を語る 「第2の苦難の行軍の再来」

取材に応じる金博士

朝鮮日報2022年7月25日付は、「北朝鮮で餓死者が続出…労働新聞も『共和国が非常局面』」と題する記事を掲載し、労働新聞などを引用し「北朝鮮でコロナ問題に伴う中朝などの国境を封鎖したことが原因で食料事情が悪化し、北朝鮮市民が飢えに苦しんでいる」旨報じた。


 北朝鮮は今年に入り、これまで発表してこなかった「北朝鮮国内でコロナウイルス感染症を確認した」旨発表するなど、国家的危機であることを強調していたが、ついに「餓死者が出た」とのことで、「国家として、そこまで追い詰められたのか」とすら感じる。


 このことについて、当メディア担当者は、北朝鮮の元外交官で、イタリア駐在時は国連食糧農業機関(FAO)で食糧支援交渉などを行ってきた金東水・国家安保戦略研究院客員研究委員(元北朝鮮研究センター所⻑)に取材を申し込み、今の北朝鮮の現状などについて見解をお聞きした。


 ここで、金東水博士の経歴を軽く紹介しておく。平壌外国語大学を卒業し、1983年に北朝鮮の外務省へ入省、上司には元外務大臣の李容浩、第1外務次官の金桂寛らが、後輩には現外務大臣である崔善姫や元イギリス公使で脱北者の太永浩・韓国国会議員らがいたという。外務省入省後は、国連課で勤務した後、スイス、ノルウェー、イタリアで駐在員として勤務しており、イタリア時代は「苦難の行軍」の時期であり、北朝鮮市民を救うべく、FAOなどと食糧支援交渉を行ってきた人物だ。


 そんな金博士に今回の北朝鮮の現状について意見を求めたところ、「飢え死にする人々が続出する非常局面の中で、北朝鮮の『第2苦難の行軍』が再び来る」という衝撃的な一言からはじまった。
以下、金博士へのインタビュー内容をシリーズでご紹介する。

 <「苦難の行軍」とは>
 北朝鮮は1990年代半ばから後半にかけて、国際的孤立と自然災害などで極度の経済的困窮を迎え、これを克服するために「苦難の行軍」という言葉を提示した。当時、数百万人の餓死者が発生するなど、北朝鮮が経済的に極度の困難な状況を経験した。
もともと「苦難の行軍」という言葉は、1938年~1939年、金日成主席率いる抗日パルチザンが満州で寒さと飢えを経験し、日本軍の討伐作戦を避けて100日間余り行軍したことに由来する。

 <「苦難の行軍」当時と現状の違い>
1990年代半ばから後半にかけた「苦難の行軍」は、共産圏の崩壊と自然災害による経済的困窮や食糧不足が自然発生的に北朝鮮を襲った状況だったとすれば、2021年から始まる「第2の苦難の行軍」は不十分な対策による新型コロナウイルス感染拡大と国連及び国際社会による対北朝鮮制裁によって選択されたものであり、ミサイル発射などを相次いで実施してきた近年の北朝鮮の国家運営によってもたらされた面もあり、なるべくしてなった状況と言える。

<北朝鮮の新型コロナウイルス感染症拡大とその影響>
私は、北朝鮮はどの国よりも新型コロナウイルス感染症の打撃を受けた国である、と分析している。 韓国銀行が発表した「2020年北朝鮮経済成長率推定結果」によると、昨年の北朝鮮の国内総生産額(GDP)は前年比で4.5%減少した。これは、大飢饉が発生した1997年のマイナス6.5%以来の大幅なマイナス成長だ。
このような状況下で、金正恩は5月15日、新型コロナウイルス拡散対策を議論するために労働党政治局緊急会議を開催した。 理由は北朝鮮が新型コロナウイルス感染拡大で中朝国境を再び閉鎖し、一部地域では食糧難で餓死者まで発生したためだ、と聞いている。
 これまで、北朝鮮は新型コロナウイルス感染症に対する防疫対策として、中国を含むすべての外部接触を断絶する道を選んだ。その結果、北朝鮮の2020年の対外貿易総額は前年比73.4%減の8億6300万ドルに落ち込んだ。
 中国からは食糧だけでなく、農作業に欠かせない肥料やビニールシート、燃料なども流入している。加えて、昨今の気候変動に伴う熱波や豪雨などは、貧しい国々にさらに深刻な問題となる。猛暑と暴雨を繰り返す気象被害やアフリカ豚熱などコロナ以外の様々な伝染病の拡大は北朝鮮の経済に致命的な打撃を与えた。
 こうした状況を受け、北朝鮮の労働新聞は「共和国非常局面」と発表した。今後、台風など自然災害まで襲ってきた場合、大規模な餓死者が発生した90年代末の「苦難の行軍」の危機的状況が再燃しかねないという懸念も出ており、金正恩体制の動揺につながる可能性が非常に高い。

次回、「第2の苦難の行軍」に立ち向かう北朝鮮 について、金博士の見解などを紹介する

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