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元北朝鮮外交官 単独インタビュー 「餓死者が出た」と報じる今の北朝鮮を語る③ 金正恩政権の苦難の行軍への対処 分析

 金正恩総書記と妹・与正氏(自由北韓放送より)

 朝鮮日報2022年7月25日付は、「北朝鮮で餓死者が続出…労働新聞も『共和国が非常局面』」と題する記事を掲載たことを受け、当メディア担当者は、北朝鮮の元外交官である金東水・国家安保戦略研究院客員研究委員(元北朝鮮研究センター所⻑)に取材を申し込み、今の北朝鮮の現状などについて見解をお聞きしてきた。今回は、その最後になる。

 前回、金東水博士は、北朝鮮学者の話として「人生の中で『苦難の行軍』を2度体験することになった」などと紹介しており、北朝鮮の知識人クラス・エリート層でもそうした発言が漏れるほど、北朝鮮の現状が悪化していることを安易に想像できるところであった。

 今回は、今シリーズの最後になる。脱北後も韓国で北朝鮮の分析を続けてきた金博士による、金正恩政権がとる「苦難の行軍」対策について、その分析・見解をお聞きした。


 以下、引き続き、金博士へのインタビュー内容である。

<金正恩流の「苦難の行軍」対策分析>
 北朝鮮は、新型コロナウイルス感染拡大及びこれに伴う貿易封鎖などが影響して、「第2の苦難の行軍」ともいうべき感染者の拡大、経済混乱、食料不足に陥っている。この国家的苦境を打破するため、今後、北朝鮮は内部の「思想武装化」をさらに強化するものとみられる。

 本年1月の第8回労働党大会で金正恩は「欠陥の原因を客観ではなく主観から探さなければならない」と力説した。これは経済政策の失敗を認めながらも、首脳部の構想をまともに履行できない党、政、軍幹部の努力不足と無能さを叱責したものと見られる。
 北朝鮮の「第2の苦難の行軍」宣言は多方面的に解釈できる。 まず、金正恩本人が昨年10月の労働党創建70周年演説と第8回党大会の総括報告を通じて、国家的苦境を事実上認めたということだ。 同時に、北朝鮮は経済的困難を打開するために対外協力より内部結束に重点を置いているように分析する。 言い換えれば、「自力更生」の強調とこれを後押しできる各種経済事業の再調整、党、政、軍幹部の覚醒を通じて経済的難局を突破し、住民の不満を解消する政策方向を推進しようということだ。


 朝鮮日報は、北朝鮮の現状などについて次のような記事を紹介している。
 「現在、北朝鮮当局は最近の状況を深刻に見ていると判断されるところ、労働新聞は今月に入って、共和国行路で今日のように超強度の非常局面はなかった、と話した。 ユ·ソンオク元国家安保戦略研究院長は『北朝鮮は体制動揺を防ぐために党幹部と住民監視を強化している。金正恩偶像化強度を高めることも食糧難などで内部が不安だという証拠とした』と話した」

 このような状況で、今後北朝鮮が選択できるカードは大きく二つに解釈される。

  第一に、内部結束を高めるものと見られる。 そのため、住民に経済的困難の実状を明らかにする一方、内部的に積もった不満が拡大しないように初級幹部に思想武装化を通じた統制を強化する道だ。
 北朝鮮は今後、69年前の金日成主席の「反帝大決戦勝利」の意義を宣伝し、将来的には金正恩氏の「防疫大戦勝利」を「21世紀もう一つの偉大な勝利」と強調するだろう。
 今後、コロナウイルスの再発、変異種の出現と予防を口実として、対北朝鮮ビラへの接触禁止と申告せせるとともに、地域間移動の自制など住民統制を持続的に強化していき、必要に応じて「コロナ恐怖」を対南挑発・緊張局面造成のための素材として積極的に活用していくだろう。
 その理由は何よりも、北朝鮮が今年7月新型コロナウイルスの発生源を韓国側から飛ばした「対北朝鮮ビラ」と指摘したためだ。 その意味を見過ごしてはならない。
 時期的には、北朝鮮に台風進路が直撃する8~9月は対北朝鮮ビラを飛ばすのに最適期であり、脱北者団体を含む民間団体などが秘密裏にビラを散布する可能性が非常に高い。

 しかも8月は、韓米合同軍事演習「乙支フリーダムシールド(自由の盾)」(UFS)が5年ぶりに再開される月であるため、北朝鮮が住民に思想の再武装の督励と7回目の核実験など戦略的挑発の名分を探しやすい時だからだ。
 
 第二に内部結束強化とともに、対外的には米国の立場に変化がない限り「強対強」の米朝対峙局面が避けられないという点を認識し、北朝鮮は既存の強硬路線を通じて戦略的レバレッジをさらに拡大していくものと見られる。
 先述のように北朝鮮の経済状況が悪化しており、食糧難が深刻化していることについては、専門家の見解の違いはない。 問題の核心は、このような「危機的状況」が金正恩のリーダーシップに影響を及ぼし、北朝鮮内部の崩壊を加速させるか、あるいは2019年の米朝首脳会談以降、すべての対話の扉を遮断した北朝鮮が予想を破り対話の場に出てくる変数になるか否かだ


 90年代の「苦難の行軍」の際、北朝鮮の「敵」を利用した宣伝扇動は内部の不安定性解消のために意図的に関心を外部の「敵」に向けるために葛藤を造成したものであり、これを通じて体制安定を図ろうとすることと密接な関係があった。
 北朝鮮が強調した「帝国主義」は、単に米国を批判するスローガンよりも、政治·経済·軍事·社会の全領域にわたって体制の存立を脅かす存在として描写された。 北朝鮮にとって米国は「苦難の行軍」を再発させた原因であり、絶滅させるべき対象である。
 現在、「無条件対話」を促す米韓に対応して、「米韓合同軍事演習の中止」という米韓からは受け入れられない条件を提示する北朝鮮の意図は、対話の場を壊そうとする従来の姿とさほど変わらない

したがって、韓国、米国、日本は、
▲北朝鮮が内部の戦列の再整備と7回目の核実験の準備が完了したこと
▲韓国の南南葛藤(韓国内部での反北、親北対立)が本格化する兆し        ▲最近の日・米・韓の協力体制強化の局面
▲米国の11月中間選挙

など情勢変化を総合的に考慮し、本格的な情勢操作、北朝鮮が統一戦略戦術を駆使していくためのカウントダウンを始めたという観点から、これに積極的に備えていかなければならない。

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