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日本の公安について

謎のベールに包まれている「警視庁公安部」。警視庁きっての「エリート集団」というイメージがつきまとう彼らだが、実態はそうした虚像とはほど遠い。長い事件史の中で、オウム事件や機密情報流出など、数え切れないほどの失態を重ね続けているのだ。イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」への参加を企図したとされる大学生の逮捕騒動でも醜態をさらした。トンデモ諜報機関の〝不都合な真実〟とは。


 「よく公安を扱ったドラマや映画をやっているじゃないですか。登場するのは、たいてい頭の切れるクールな刑事。ちゃんちゃらおかしい。あんな仕事がデキる刑事なんていないですよ」
 永田町に選挙風が吹き始めた11月某日。都内の喫茶店で取材に応じた男はこう吐き捨てた。
 生業はジャーナリスト。世界各国の紛争地を巡り、警察の実情にも精通している。


 男が指摘するように、TBS系ドラマ「MOZU」や映画化もされたNHKドラマ「外事警察」など、「公安」を素材にして製作された作品は、枚挙にいとまがない。
 だが、「公安」のやり口をつぶさに見てきた男の口から語られるその実像は、映像が描くヒーロー像とはまるで違うものだった。
 「諜報機関として必要とされる情報収集能力、警察としての捜査能力。そのどちらにも致命的な欠陥がある。それどころか、警察が起こした不祥事の多くは、彼らがしでかしたものが多いのが実情です」(先のジャーナリスト)


 記憶に新しいのは2010年10月の捜査情報流出騒動である。
 公安部外事第三課を中心とする国際テロ組織に関する公式文書114点のデータが、インターネット上に流出した。
 機密情報が外部に漏れ出ること自体あり得ない話だが、明らかになったその中身についても、「恥の上塗りだ」として警察関係者の間で話題になった。


 当時、騒動を取材した大手紙の社会部記者は、「公安が必死になって集めていた情報はどれもテロ組織に結びつくような重要なものではなかった。単なるイスラム教徒をテロリストとしてマークするなど、的外れな捜査を行っていることが白日の下にさらされてしまった」と話す。
 オウム事件でも被害を拡大させる遠因を作るなどの失態を犯したが、先のジャーナリストは、「イラクの武装勢力が日本人を誘拐してイラクからの自衛隊の撤退を求めた2004年のイラク人質事件でも大失態をやらかしています。『人質の1人が左翼活動家である』と事実と反する情報を官邸に挙げたことで、人質の命を危険にさらした。国内で人質バッシングが巻き起こったのも、公安による情報のミスリードが背景にあったのは、言うまでもありません」と明かす。


 様々な場面でポンコツぶりを露呈してきた公安だが、最近、不穏な動きが目立っている。
 11月13日。その日、京都市左京区にある京大キャンパスには「学問の府」とは不釣り合いな怒号が響いた。公安の捜査員が、キャンパスに隣接する吉田寮になだれ込み、それを阻止しようとする学生らと激しい衝突を繰り広げたのだ。
 「表向きは、東京・銀座でのデモ行進の際に発生した京大学生ら3人による機動隊員への公務執行妨害事件に絡む家宅捜索だった。しかし、そこには明らかに別の意図があった」(全国紙社会部記者)
 強硬策に踏み切る契機となったとされるのが、公務執行妨害事件から2日後の11月4日に起きたトラブルだ。その日、事件に反発する学生らによる集会がキャンパス内であり、その場に潜入していた京都府警の私服警官が学生らに取り押さえられる騒ぎとなった。
 その際には、警官が無料通信アプリの「LINE」を使っていたこともバラされたという。捜査対象に素性がバレるだけでなく、警察の手の内まで暴露されるなど、あってはならない事態だ。
 そのため、「家宅捜索はあくまで表向きの理由で、本来の目的は警察に恥をかかせた学生らへの意趣返しだったというのが関係者の共通認識」(同)という。


 その直前には、イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」に加わるために北海道大学の学生が紛争地のシリアへの渡航を企てたとして、「私戦予備・陰謀」の容疑で事情聴取した。
 耳慣れない容疑だが、一体どんなものなのか。
 「これは、外国に対して私的に戦闘行為をする目的を禁じた法律だが、馴染みがないのは当たり前だ。成立後、初めて適用されるもので、これまでこの罪状での逮捕者が一度も出ていない。今回も学生は事情を聴かれただけで事件化されることはなかった」(先の社会部記者)
 いわば無理筋で事件を強引にでっち上げたというわけだ。
この一件では、学生の関係先として、イスラム学者の中田孝氏や、イスラム諸国への取材経験が豊富なジャーナリストの常岡浩介氏の自宅に公安の家宅捜索が入っている。実は、それが公安の真の狙いだったとの指摘もあるが、ここでも無能ぶりをさらけ出したというから呆れる。
 「公安は家宅捜索で常岡氏の持つパソコンやタブレットなどを根こそぎ押収したという話です。ただ、そこで押収したパソコンのパスワードが解読できず、あろうことか本人に『パスワードを教えろ。さもなくば壊す』と脅しをかけたというのです。そもそも、イスラム過激派に通じる2人から情報を入手するのが真の目的で、事件はその理由付けだったのではないかという観測もあるくらいです」(冒頭のジャーナリスト)
 さらに、公安は「イスラム国」絡みの捜査では端緒となった北大生にもおちょくられる始末だ。問題の大学生は、事件発覚後に週刊誌の直撃を受け、「捜査員の尾行をまいた」と豪語。自身のツイッターでも「取り調べが雑」などと、散々コケにしている。
 「『イスラム国』や京大事件で立て続けに動いたのは、秘密保護法の施行を睨んでのことではないかとも言われている。施行後、捜査対象に対して、どこまでムチャができるか。2つの事件をその試金石にするつもりなのでしょう。来年度の予算編成も迫っており、ここで存在感を示しておきたいという思惑もあるはずです。ただ、そのやり口はあまりにずさんで場当たり的だと言わざるを得ない」(同)
 「警視庁きってのエリート集団」のはずが…。看板倒れもいいところだ。
 

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